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第11話 初めての朝

Aвтор: 霞花怜
last update Последнее обновление: 2025-06-05 18:00:41

『お前は特別な子だよ、直桜。その身に最高神を宿せる。神降ろしができる子は集落でも数少ないんだ』

「嫌だ。俺はそんなの、望んでない。神様なんか、いらない」

『神降ろしをしろと教えただろうに。神喰いなど、恐れ多い。顕現させた神を止めるから生神なのに、神を体内に喰らったら、何の意味もない』

「言われた通りにしただけなのに。直日神は内側に宿ることを望んだから。魂が繋がれば直桜の負担も少ないって、直桜ならそれができるって、神様がそう言ったのに」

『異端、忌子、災禍の種。何故、教えた通りにしなかった。人が神の力を得るなど、恐ろしい。お前はその力を使ってはいけないよ。きっと災いが起こる、きっとだ』

「そうか、俺の存在が災いなんだ。これだけ集落が騒いでる。力を使わなければ、普通に埋もれて生きれば、きっと何も起こらない。きっと、平和だ」

 昔々の出来事が、走馬灯のように頭の中を流れていった。

(……夢、か? 久々にみた。あの時、俺を災いと呼んだのは、誰だったか)

 呪詛でもかけるように囁いた女は、まるで直桜の存在を卑下した声で、顔で、笑っていたと思う。

(気分、悪ぃ。久しぶりに神力を使ったせいか。もう、忘れていたのに)

 カーテンの隙間から木漏れ日が差し込んでいる。鳥の鳴く声が朝を告げていた。

 気分が悪くて寝返りを打ったら、やけに端正な男の顔が目に入った。

(あれ……、化野? あれ、あれ⁉)

 状況が理解できずに頭の中が混乱している。

(昨日は楓と飲んで帰って、風呂上がりの化野と話を……、プリン食べて、えっと)

 

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